手綱は感覚が敏感な馬の口に装着されたハミに繋がっているので、非常に強力に作用する。このため手綱をぐいぐいやれば何でもできそうに思うが、そうはいかない。馬の首をむりやり手綱で捻じ曲げても、首が向いている方向とは逆に、どんどん外に逃げていくことは乗馬をやっている人は皆、経験済みだろう。
手綱と鞭 | |
手綱の持ち方 | 手綱による扶助 |
ハミ受け | 馬の仕草 |
鞭の使い方 |
手綱は敏感な口に銜えさせたハミにつながっているので、初心者でも、馬に大きな影響を与えることができる。だからと言って、手綱で馬を思うとおりに操れるという訳ではない。体重や、脚などと調和のとれた使い方でないと、本来の効果は発揮できない。
・手綱の握り方
ウェスタンでは、片手手綱(左右の手綱を片手でまとめて持つ)が基本だが、ブリティッシュでは、左右両方の手でそれぞれの手綱を持つ。
この絵のように、小指と薬指の間を通して、親指と人差し指の間に挟んで前方へ余った部分を出す。親指と人差し指は常にしっかり挟んで持ち、薬指側はゆったり柔らかく持つ。
手綱を控える(強く張る)場合は、腕で手綱を引っ張るのでなく、拳を固く握って薬指側を引き締める。譲る(緩める)場合は 薬指の握りを緩める。もちろん、手綱がピンと張っていることが前提で、手綱がブランブランのときに、拳を握ったり緩めたりしても効果はない。
常に手綱をピント張った状態にしておけない初心者は、「手綱を控えて」というときに、腕でグイッと手綱を引っ張っても仕方が無いが、「引っ張ってはいけない。しっかり握るんだ」と意識していることが大事。
折り返し手綱をつかったりする場合は、通常の手綱と折り返し手綱の2本を持つことになる。この場合、折り返し手綱を、下の絵のように、中指と薬指の間を通して握る。
騎乗する際は、全部の手綱を左手でまとめて持って、馬上に跨がったらまず普通に通常の手綱を握り、ついで折り返し手綱を人差し指・中指を開いて引っかけて握り込む。親指側に出ている折り返し手綱の余りを反対の手で引っ張って弛みが無いように張る。反対側の折り返し手綱も同様に握り込んで張る。
騎乗している間中、折り返し手綱は弛んではいけない。常に「あっ、なんか厳しくで制限されているんだ」と馬が感じるように、馬の状態に応じてしっかり張った状態を保つ。ただし、(主)手綱がブランブランになるほどに折り返し手綱ばかりが作用する状態はNG。
折り返し手綱は作用が強いから、しっかり張って馬に感じさせれば、「ああ、作用しているな」と判る反応がある。調教されている馬で、そういった反応が無いのは、張りが弱い証拠。
・手綱を持つ腕の位置
肘は必ず曲げておく。馬が急に首を前下方に倒したときに、上体が前方に引き倒されることを防ぐクッションになる。
①手綱と前腕が左の絵のように一直線になるような高さに拳を保つ。結構高い位置で、ちょっと高いんじゃないと思うくらいで良い。
こうすると背筋もまっすぐ伸び自然と良い姿勢が保てる。
②手綱はたるまないようにピンと張って、手綱を持った拳の前後位置は馬のき甲の手前あたりに位置させる。
③両脇につけた肘は脇から離さない。手綱を操作するときも基本的には肘は脇から離さない。
肘は若干背中の側に突き出す程度後方になってかまわない。
この絵は悪い姿勢。拳の位置を下げすぎなので手綱と前腕が一直線になっていない。
手綱を持つ拳の幅はだいたい25-30cm程度だが、馬の首の太さなどによっても変わる。
この絵のように手綱が馬の首に軽く触れる程度に拳の広さを保つ。手綱が馬の首に押し当てられて、折れ曲がってはいけない。
かといって、手綱が馬の首に接触しないほど広く持ってはいけない。
・横から見た手綱の持ち方
手綱の持つ手を横からみて下記の点にも要注意。
手綱を握る拳は、緑の〇印の絵のように持つのが良いとされている。小指側より、親指側を前に出す感じ。
左の赤い×印の絵のように、拳を立てすぎてはいけない。
これでは、拳を立てすぎだということで、上側の緑の〇印の絵のように持つのが良い。
肘の形は、
真ん中の緑の〇印の絵のように、肘を適当に曲げて、手綱と前腕が一直線になっているのがよい。
一番上は肘が伸びすぎ。一番下は肘が曲がりすぎ、どちらも手綱と前腕が一直線になっていない良くない持ち方。
これについてはM先生から、「前腕(肘から前)も手綱だと考えろ」と指導を受けた。こう考えるととても分かり易く、手をこねくり回して手綱を操作するなんて論外という実感が持てる。
・上から見た手綱の持ち方
手綱を握った拳の親指は反対側の馬の耳を指しているのが正しい方向。
この絵のように 右の拳の親指は馬の左耳を指し、左の親指は馬の右耳を指すように保つ。
これは拝み手綱(?)という悪い持ち方。
手首の形を意識せずに、手綱を鞍の前(ゼッケンの前縁あたり)にしっかり据えようとすると、いつのまにかこういう形になっていることがあるので要注意。
これは拝み手綱とは反対に手首が内側に折れているが、しっかり馬と強いコンタクトを取る場合はこの程度は許容されるらしい。というか、こういう持ち方になっているインストラクタは結構見かける。
CRなどでは上から見ても腕と手綱が一直線がよいといっているが、許容範囲は結構広いようだ。けれども、拝み手綱の持ち方は肘を外に張って背中が丸まるのでどの説でもダメだと言われている。
・前から見た手綱の持ち方
手綱を握る拳を前から見たときに、この緑の〇印の絵のように、拳の向きがハの字型になるのが良いとされている。
ただしCRでは拳は真っ直ぐ縦に握れと言っているから、これではダメだということだろう。
赤い×印の絵のように手の甲が上を向た握り方は不正な握り方。どんな解説書にもこれはダメだと書いてある。この手の形を「ババ掴み」という悪口があるそうだが、力を抜いて極気楽に乗っていると、いつのまにかこのババ掴みになっていたりする。
握った拳の親指の爪が上からよく見えれば良いと思っていれば、さほど酷い持ち方にはならずに済む。
・手綱の長さとその調整:
・引っ張りすぎ:手綱を常時ぎゅうぎゅうに引っ張って持っていて、馬の口に痛みを与えている状態。
この状態だと、馬は反抗してますます手綱を引っ張り返すか、あるいは、痛みから逃げようと走り出したりする。「強いコンタクトをとらなくちゃあ」とばかり、馬の反応を無視して、これをやってしまいがちだから要注意。
・弛んで、ゆるゆる:手綱が緩んでブラブラと揺れている状態。
馬が何かに驚いてぶっ跳びそうになっても、とっさに抑えられないので危ない。馬がきちんとハミを受けて、乗り手に従っているときは、多少緩くても良いらしい。
・ピンと張って、適度な張力を保っている状態。
この状態だと、馬の口に無用な痛みを与えることなく、乗り手の意志も的確に馬に伝えることができる。適度なというのが難しいが、馬の様子をよく観察していれば、判る。ただし、初心者のころに思っていたのよりは、ずっとずっと強い力をこめて良い。(引っ張るのではなく、強固に固定して引っ張られないように))
乗っていると、いきなり馬が首を前方下方にグイッと伸ばして、手綱を引っ張られて馬上で前に引き倒されそうになることがあるが、手綱の張りすぎでもないのに、このようなことをされたら、決して引き倒されてはいけない。拳を強固に控えて、引っ張りに耐えて、馬のこうした動きを許さないようにしなければいけない。前方に引き倒されてしまうのは、馬が乗り手に敬意を払わなくなる第一歩。
こちらには、馬が手綱を引っ張る原因と、引き倒されないようにするコツなどが、とても分かり易く動画で解説されている。
・手綱の長さの調整
大きく詰める場合: 以下の①~③の手順で、
①手綱を左右合わせて右手(左手)でまとめて持つ
②空いた左手(右手)を前方へ滑らせて、左右の手綱を左手(右手)で短くまとめて持つ
③左手(右手)で持った両手綱のうち、右(左)手綱を右手(左手)で分け持つ
少し詰める場合: 例えば左手の手綱を詰める場合は下のアニメのように、
①手綱を持った右手の親指と人差し指で、左手の手綱の余り部分をつまみ挙げて、
②左手の握りを緩めて手綱が緩まないように張力を掛けながら、
③左手の握りを縮めたい長さ分下前方へ滑らせて、
④左手親指の握りを強めて、右手を手綱から放す。
右手の手綱を詰めるときは、上のアニメの左右を入れ替えて同じ事をする。上のアニメでは、右手に握った手綱は省略してある。
動作中、手綱の左右の張りの強さが同じになるように注意する。
緩める場合: 手綱の長さを、緩めるときは、親指の圧迫を緩めて、手綱を指の間に滑らせて緩めれば良い。
発進、あるいは、停止、曲がったり、真っ直ぐ進んだりには、手綱を扶助の一部として使う。扶助はどんな場合も、体重(騎座)、脚、手綱など全てが調和した一体となって効果があるのであって、決して手綱だけグイグイやれば目的の効果が出るものでは無いことに注意。
・発進停止の扶助
発進停止の扶助では、手綱は左右には動かさず、両方を前方に譲る(馬の首からの抵抗に対してやや緩める)ことと、手綱を控える(引っ張るのではなく、馬の首が前に出ようとするのに抵抗してその場にしっかり留める)の二つを使う。
発進、停止ともに上体が前のめりにならないように注意する。さあこれから行くぞ、さあ止まるぞ、ということで無意識に力が入り上体が前かがみになりがちだから特に注意。
発進の扶助
拳の中指、薬指、小指を緩めると同時に、拳をやや前に出して手綱をやや緩める。
両脚で馬腹をギュッと圧迫して、これに応じて馬が前方に体重を移そうとしたタイミングで緩める。ただし、ゆるめすぎないこと。特に調教が出来ている馬の場合は、手綱のコンタクトを保ったまま、脚の圧迫で前進を指示する。たとえば、走り出して欲しくて手綱を緩めても駈け足発進はしてくれない。手にしっかり手応えのあるコンタクトを保ったまま、脚の圧迫を強めて合図しないと、駈け足は出ない。
・後退の扶助
後退(後進)の扶助では、手綱を停止よりも強固に控える。
最初は引っ張るくらいにしないと後退してくれないかもしれない。ただし力で引っ張るようにしても実際はそれほどの力が出ていない。この絵のように姿勢をまっすぐして、拳を腰の前横にしっかり位置させて上体を後ろに倒す力を拳に伝えるイメージを持つと、腕力で引っ張る感じにならずに大きな力になる。
脚は前進のときと同じように使う。つまり前進同様に両脹脛で馬腹をギュッと圧迫する。このとき通常より後ろの部位を圧迫せよとI先生は言う。H先生はそのようなことは言わない。I先生のクラブの馬は、両脚を通常より20cmほど後ろに下げて馬腹を圧迫すると、手綱はほんの少し控えておくだけで、後退してくれる。手綱を引く必要はまったくなし。調教の仕方の違いか。
後退の扶助で大事なのは、後退して予定していた歩数下がったら、そこで止まったままにしないで、必ずすぐに前に進めることだという。でないと、前に出にくい馬になってしまうという。
・曲がる時の扶助
曲がる場合に、主な扶助は体重と脚で与える、手綱も扶助として使う。開き手綱、押し手綱と譲る手綱という3種類の扶助がある。
開き手綱: 曲がりたい方向の拳を、親指をやや外に向けるように手首を回して回転内側に誘導して、馬の顔を曲がりたい方向に向ける。 これで馬は青い矢印の方向へ曲がる。 |
赤い×印の絵のように肘を脇から離して腕力で外へ引っ張ってはいけない。 緑の〇印の絵のように、肘はわき腹に付けたまま、肘を中心に前腕を開いて手綱を外へ誘導するのが良い。 回転外側の手綱は馬の首にしっかり当てて、押し手綱として使って馬を回転方向へ誘導せよ、という教本もあるが、H先生は、あまり押し手綱を強調しない。むしろ回転外側の手はやや前方外側に開いて譲っても良いという。 |
押し手綱: 曲がりたい方向と反対側(回転外側)の手綱で馬の首を押すように圧迫。 この絵は、極端な場合で、馬の首は左へ向いているが、押し手綱によって馬は右へ(青い矢印の方向へ)進む。 |
馬が首が向いている方向と逆に進んで、「あれれっ」となるときはだいたい 無意識に押し手綱になっていたりする。 押し手綱という名称から、ついグイグイ押してしまいがちだが、H先生はちょっと触るだけでいいんだと言う。 |
譲る手綱: 曲がりたい方向と反対側(回転外側)の手綱を譲る。 |
曲がるときに回転外側の拳を緩めて手綱を譲る。このとき、反対側(回転内側)の手綱を引かないように注意。 左の絵では左拳を緩めている様子が表現できていないが、拳を緩めて手綱を譲ることで馬は矢印の方向へ曲がる。 |
・片手手綱による練習
手綱を操作する時にも上体は不動であることが望ましいが、これがなかなかできない。特に、両手で手綱を持つとどういう訳か操作がおおきくなって、手の動きにつられて上体が傾いたり・捩れたりする。
手綱を片手で持って乗ることで、上体の余計な動きを封じ込める練習をすると良い。
また、片手手綱での練習は、躰に入った余分な力(りきみ)を抜くにも効果がある。
右に曲がろうとして、右の手綱を開いたり、あるいは、控えたりして馬の首を右に誘導しているのだけれど、馬はドンドン真っ直ぐ(右に曲がっている首からみれば左へ曲がって)進んでしまうことがある。これは外方の手綱(左手綱)の枠を破られているからだとM先生は言う。つまり外方手綱の抑えが甘いからだという。
で、外方手綱をしっかり抑えると馬は止まってしまうが、これは推進が弱いから。外方手綱を効かしても馬が止まらないように脚でしっかり推進して、外方手綱のコンタクトを強く保って、しっかり進むべき枠を感じさせてやれば、きちんと右に曲がってくれる。
・悪い扶助の例
悪い手綱の使い方はいくらでもあるが、代表的なものを以下に示す。基本的に手綱を使って馬を制御しようとしたとき、上手くいかないからといって、より強く手綱を使うことは間違い。
うまくいかないのは姿勢や体重がよれているからであり、これを正さずに手綱でなんとかしようとしてもダメ。手綱がうまく効かなかったら姿勢を直せとH先生は言う。M先生は、しっかり推進しろという。
手綱を引っ張る(1): 回転外側に体がずれる
曲がる方向へ馬の首を向けようと(絵では右の)手綱を強く引くために、尻が外側(絵では左側)にずれてしまう。
尻が外にずれるということは体重が外側に掛かるということで、馬は手綱を引いた方向には回転してくれない。体重がかかった外へ動こうとする。
つまり、曲げたい方向(絵では右)の手綱を引くと意図とは反対に、馬に左へ行けという体重移動の扶助を与えてしまう。
手綱を引っ張る(2): 譲る手綱の反対側を引っ張っる
右へ曲がるために左の拳を譲って前に出しているが、出した手の反動や、右へ曲がって欲しいという願望から右の拳を引いて馬を右へ曲げようとしている。
引く手綱は必ずブレーキとして作用する。
手綱を譲って馬を曲がらす場合、回転内側の拳を引いてはいけない。
譲る手綱の理想は両拳の位置が変わらず動かないこと。両方の拳の位置は動かさず、譲る側の拳の薬指、小指、中指を緩めるだけで手綱を譲って馬を曲げるのが理想形。
回転外側の手綱を持つ拳がき甲の線を越えて反対側へ動く
右へ曲がって欲しいと、馬の首を両手で右へ誘導しているが、左手の拳がき甲の真上を越えて反対側まで動いてしまっている。
なかなか曲がってくれないとき、思わず「頼むからこっちへ行ってくれ」と手綱を一生懸命動かす。このため「やってはいけない」と判っていても、もう少し強い扶助じゃないと効かないのかな、とやってしまいがちな行為。でも、これは絶対にしてはいけないという。
右拳と左拳を同時に右だ左だと同じ方向へ動かしてはいけないというが、CRではこれをダメとは言っていない。M先生も、ごちゃごちゃ解らなくなったら、左右を同時に同じ方向へ、右だ左だと動かせという。
回転時の上体の前傾
曲がりたい方向の前方に上体がかぶさってしまい、肘もガバッと開いてこの絵のような姿勢になりがち。
これをやると回転したあとで直線にはいっても馬が真っ直ぐ行かずによれて進んでしまう。
曲がりすぎたり(曲がり終えて、直線に戻したつもりなのだが、馬は回転を続けてしまう)、直線にはいってからも斜めに進んだりしがちなのでこれはダメ。
馬は、消化の悪い草を栄養源とするために重い巨大な消化管が必要で、この重い内蔵を支えるために背骨は頑丈な柱のようになっていて柔軟性に乏しい。
この背骨が頑丈だということは、人が背に跨がって乗るのに大変都合が良い。とはいっても、人の重さは馬の重さの10ー20%、背骨にはけっこうな負担が掛かる。ちゃんと人の重さを受け止める訓練をして馬に筋力をつけておかないと、馬は背中を痛めてしまう。
そして、馬は立ったまま頭を下げて地面の草を食べることができるから、
背骨は、この絵の赤線のように、尻側が高く、前肢側がかなり低いという、思いも寄らない前下がりに馬の背を貫いている(多少傾斜を誇張してあるが。。。)。人はこの赤い線(背骨)よりずっと上に乗っているから、人と背骨の間を何(筋肉・腱・脂肪??)が埋めているのか?
馬の背骨の上には発達した棘突起骨(人間の背骨にも短いけれど存在する)というものがあって、人は背骨の上に乗るというより、むしろ棘突起骨に乗っているというくらいなものらしい。
馬の棘突起骨(下の絵で、背骨から上方に棒のように突き立っている骨、首の部分にはほとんど無い)はとても発達していて、長いものは20cm以上ある。き甲はこの発達した棘突起骨が背から目立って隆起して見えるもの。棘突起骨には非常に強力な腱と筋肉(下の絵の青色の部分)がついていて、これが内臓の重みが掛かる背骨を支える吊り橋のロープのような役割を果たす。
後肢の踏み込みは、「self carrage」と言って馬術ではとても大切なことだとされ、馬術競技の審査項目としても重視されている。馬が後肢を活発に踏み込んで、体重の多くを後肢で支えることが理想とされている。(けれども競馬などでは、走るために後肢よりも前肢の方が多くの力を担っていることが判っている。)
馬の鼻面がほぼ垂直になっていればハミ受けをしていると言えるらしいが、真っ直ぐならよいというものでも無いようだ。肝心なのは馬がのびのびと首を前方に伸ばして、後肢を勢いよく踏み込んで運動することらしい。またハミ受けをすると、唾液の分泌が盛んになって大量のよだれを出すとも言われている。
ところで、ハミ受けをさせた状態で乗れると、乗り心地が断然良くなる。駈歩の反撞も柔らかくなり、同じ馬とは思えないほどに滑らかな乗り心地で気持ちよく乗れる。また手綱にもほとんど力を入れずに適度な緊張が保てる。とにかく、乗り心地の改善にはびっくり。
そこで、いろいろ調べてみると、騎手の体重を背中で受け止めやすくするという効果の他に、乗り手の指示に従いやすくする効果があるという。ある教本には「ハミ受けとは、馬がハミの作用を受け入れ、騎手の指示を受け入れる体勢になっている状態をいう。馬は、ハミに対して抵抗することなくリラックスして受け入れ、騎手が出す扶助に従える精神状態でなければならない。『ハミ受け』ができている状態では、馬は下顎を譲って頭頸はきれいなアーチを描き、馬全体が丸くなる。それにより背もまくるなり、騎手を乗せても背を傷めることが少ない」と紹介されている。
こうして調教された馬がハミ受けをするのは、手綱を引っ張られて苦しいから頸を屈撓させてハミを受けるのでなくて、ハミを受けた姿勢の方が楽なことを知っているから。
馬から見て、ハミ受けをしているのに手綱をぐいぐい、がちゃがちゃやられたら、せっかくハミ受けをしたのにぜんぜん口が楽にならない、やってられない、となってハミを受けてくれなくなる。推進力不足でもダメ。
どうやら、「ハミ受けとは、馬がハミの作用を受け入れ、騎手の指示を受け入れる体勢になっている状態をいう」が意味していることは、「ハミ受けさせた姿勢を取らせれば騎手の指示を受け入れる体勢になる」ということではさらさらなくて、因果関係が逆で、「馬に指示を受け入れさせられるほど乗り手が上手なら、ハミ受けさせた姿勢を取らせることができる」ということらしい。
以前は、ハミ受けをしてくれないけどどうやれば良いとかゴタゴタ書いたが、そんなことは悩んでもしょうが無いことに思えてきて削除した。というのは、ある程度訓練された馬は、どうやってハミ受けをやらそうか?などと考えずに、どんどん推進して、拳を静定させて乗れば、ちゃんとハミ受けしてくれる。
しかし、拳が静定せず、ハミをガタガタさせては、馬としても口が一向楽にならず、「(ハミ受けなど)アホらしくて、やってられない」となる。
ただし、推進不足で馬が前に出ていないと、馬はハミのコンタクトを感じないからハミ受けする気にもならない。
・ハミ受けのポイント
- ハミ受けができるように訓練されている馬で練習しよう
(訓練されていない馬では、初心者がハミ受けをさせるのは難しい)
- 姿勢をしっかり強固に保って、脚をふらふら、あるいは、腕をブラブラさせない
- 脚で強く推進を掛ける(特に、スッとハミ受けさせられない初心の段階では)
- 手綱は強く堅固に張るが、決して引っ張ってはいけない
引っ張る:馬がハミを譲ろうがなにをしようが強い張力をかけ続ける
張る: 馬がハミを譲ったら手綱は緩む
乱暴に言えば、グイッと引っ張って、その張った位置で拳を固定して、絶対に緩めない。ただし馬がハミを譲って手綱が緩んでもそれ以上は絶対に引っ張らない、というイメージ。
- 拳(腕)を強固に固めて、絶対に馬に拳を前に引っ張らせない
馬に引っ張られたときに、拳を動かさずに固定していられると、馬は引っ張っても無駄だと理解する。引っ張られて拳が前に緩んだり、上体が前に引き倒されたりすると、馬は乗り手を甘く見る。
ところで、乗り始めたら降りるまで一鞍ずっとハミ受けさせておくべきだという意見もあるが、RRでは、「ハミ受けは馬にとってもエアロビスクのようにキツいから、適当に切り上げるべきで、最初から最後までずっとハミ受けさせておくのは過酷だ」と言っている。どっちが本当だかよくわからない。
以下は私の経験の中で出会った馬の仕草のいくつかの例。馬の反応には個性があり、たとえば鞭を嫌って蹴るだけとは限らないが、参考になれば幸い。
姿勢・仕草: 首を上げ下げして、鼻面も当然はげしく上下に振って、はななだしいときはよだれを乗り手の顔まで飛ばす。
原因: ハミに強くあたっているため嫌がっている。ふだん水勒をつけている馬に、なにかの事情で大勒ハミを付けて乗ったときにこれをやられた。
対応策:大勒ハミを水勒ハミに替えてもらった。
大勒ハミでもこういうことをやられないように穏やかに使えないといけないのだろうが、たるませた状態に近い張でもダメだった。
姿勢・仕草: 頸を強烈に捩じって、口先を斜め横に突き出して手綱を引っ張る。最初これをやられたときは、だんだんどうしようもなくなった。
原因: 左右の手綱の引く力のアンバランスがひどすぎる。ただし、これを別のクラブの馬にやられたときは、インストラクタは、(乗り手のハミへのあたりが悪いということでなく)馬がどこまで我儘を通せるのか乗り手を試しているんだと言った。
対応策:左右の手綱に掛ける力を均等にする。輪乗りなどのときも、左右のハミにあたる力をできるだけ均等にする。馬が乗り手を試しているのなら、手綱を緩めたりせず、厳しく叱る。
姿勢・仕草: 頸をぐっとあげて、耳を後ろへ伏せる。耳を伏せるのは恐怖あるいは威嚇だから、馬と折り合いがついていないことは明らか。
原因: I先生のところのこの馬の場合は、拍車でつっつくと怒って耳を伏せて威嚇する。「拍車でつっつくんじゃねぇ」と乗り手に対して怒っているという。
対応策:この馬の場合は、拍車の当て方を下から擦り上げるようにすることで対応できた。
ほかの馬では耳を伏せる原因はいろいろだろうから、それぞれの原因に応じた対応が必要。
姿勢・仕草: 首を強く曲げて鼻面を地面に相対するように向けて巻き込む。ハミ受けにちょっと似てるが、顔の巻き込み方が異様なので悪いと判る。
原因: ハミを強く当て過ぎているので、馬が痛みから逃れるために首を巻き込む。
対応策:ハミを強く引きすぎないようにする。
姿勢・仕草: 尻を跳ね上げる。いわゆる尻っぱね。
原因: 拍車や鞭を使った時に嫌がってハネる。
I先生に収縮駈歩を教わった時に、アクセル3倍ブレーキ3倍と言われて拍車が強く入った時に数回はねられた。構わず続けたらそれ以上は跳ねなかった。拍車を嫌がって跳ねる馬は珍しくない。
対応策:I先生は、「跳ねられても抑えこめ」と言う。シリッパネぐらいで乗り手が引っ込んだら、跳ねれば嫌な事から逃れられるという悪い知恵がついて良くない。跳ねられた後、続けて跳ねられても良いように、尻を浮かせ気味にしたら、「跳ねられても、体重をしっかり座骨に掛けて、押さえ込まなきゃあダメですよ」とS先生には言われた。
姿勢・仕草: 後肢を横に挙げて尻の横方向(空中)を蹴る。
原因: 拍車や鞭(を尻に)使った時に嫌がって蹴る。
対応策:どうすべきか先生に訊いていないが、蹴る暇がないくらいちゃんと推進しろというような対策だと思う。
ちんたら歩いているから蹴れるので、一生懸命歩いて(走って)いたら蹴れないはずだからなぁ。
姿勢・仕草: 蹄跡上柵にそって歩いているときに、首を曲げて柵(木製)をかじる。柵から草がはみ出ているときなどに、草を喰うのも同じ。
原因: 乗り手をなめている。乗り手の指示に従わなくてもよいと思っているので好き勝手な行動をとる。馬が勝手な行動をしたら許さないという毅然さがない。
対応策:齧ろうとする兆しがみえたら直ちに叱る。(安直に叱るなら、鞭で齧ろうとしてのばした顔を打つ(まねだけでもOKか))
姿勢・仕草: 停止後など止まっているときに首を下前方に急激に伸ばして、手綱を引っ張る。
乗り手は手綱を持った手を強く前方下方に引かれるので、上体が前方に引き倒される。
原因: 馬が乗り手の品定めをしている?あるいは、ハミがきついから緩めんかい!と馬が文句をいっている。
対応策:前に引き倒されて馬上での体勢が崩れてしまうようだと、馬は乗り手を軽視するようになる。絶対に引き倒されないように、深い騎座で乗り、拳を堅固に構えておく。
先生が言うには、だいたいが馬に「きをつけ」の姿勢を取らせることができないから馬に勝手なことをされると。馬に、「乗り手の指示に従わなくてはいけない」と思わせておければ、馬は勝手なことをしないということで、まあ上のようなことをされるのは、あきらかに馬は乗り手に敬意を表していないということらしい。
馬は賢いので、乗り手が鞭を持っていないと判ると、鞭打たれる心配がないからサボったりする。だから、一般的には、鞭を持って乗った方がよい。
ただし、馬によっては鞭に対して恐怖心を持っていたりすることがあるので、インストラクターが鞭は持たずに乗れというなら鞭は持たない。また、実際に鞭打たなくても鞭を真横に挙げて馬からよく見えるようにした(見せ鞭)だけで、馬が「あ、鞭を入れられる」と恐怖して、鞭を入れられたのと同じ反応をする場合がある。だから、馬が変則的な動きをしたときに、上体の安定を保っていられず手・腕がバラバラと踊ってしまうようだと、手にもった鞭が馬に当たったり、当たらなくても見せ鞭として作用して、馬がますますバタつくことがある。こういう乗馬レベルなら、手・腕が安定するまで、鞭は持たない方が良い。もし、鞭を持って乗っていて、こんなことになったら、手に持った鞭を地上に捨てるのも馬を落ち着かせる一方法。
ただし、M先生が言うには、手が踊るから鞭が当たってよくないということで鞭を持たずに乗ると、せっかくの手を安定させて乗るという練習の機会を放棄していることになるという。暴れられて落馬の危険性があるなら別として、鞭を持って乗り、鞭がばらばら踊らないように拳を安定させて乗る練習をしておくべきという。
ところで、こちらの動画には鞭の使い方などの説明があるが、この人の解説シリーズの中での「馬が鞭を怖がるようにしてはいけない」「鞭は痛みを与えて言うことを聞かせる道具ではない」「鞭を使って駈歩を出させたとしても、それは駈歩をさせたのではなくて、痛みでパニックになって馬が逃げ出しただけ」などという解説は、鞭に対する認識を新たにさせられる。特に、いきなり叩いてびっくりさせるな、軽く触って馬に考える時間を必ず与えて、痛いから反応するのでなく、合意に基づく扶助になるようにせよ、というのは貴重な助言だ。
(1)短鞭と長鞭
短鞭は長さ60~70cmの短い鞭。主に障害飛越競技などで使う他、練習用に一般的に使われる。鞭をいれる箇所は主に馬の肩の周辺。ただしハンターシートの教本には、短鞭でも鞭は騎手の脚のすぐ後ろの馬腹に入れろ書いてある。
長鞭は75cmを超える長い鞭。120cm以内と決められている。馬場馬術の練習用に使う。鞭を入れる箇所は主に馬の脾腹の周辺、ちょうど乗り手のアキレス腱の後ろあたりの馬腹。鞭を入れた側の後肢の踏み込みを促したり、左右の一方によれる癖がある馬の撚れを防ぐために撚れる側へ鞭を入れたりするのに使う。
(2)鞭の持ち方/振り方
鞭を落とさないように鞭を持つ拳はきつく、鞭を持たない拳の握りは甘くなり、両拳の手綱を握る強さがアンバランスになりがちなことに注意。左右のバランスが悪いと、馬が急にスピードを出した場合などに、アンバランスが原因で急カーブされたりして危ない。
鞭は埒に沿って運動している場合は埒の内側(回転内側)の拳で持つ。鞭を左右持ち替える必要があるときはストラップには手首を通さないようにする。
回転方向を変えたら、左右持ち替えて、回転内側の手(内方の手)で持つようにする。鞭で内方後肢を踏み込ませるために、内方の手で持てと言うことだが、埒の外側方向から鞭を使った場合、馬が鞭を嫌って埒から逸れる方向へいってしまう可能性があり、内側方向から使えば、馬が鞭を嫌って外側に行こうにも埒に邪魔されてコースを逸れようがないともいう。
ただし、左右特定の後肢の踏み込みが悪いというような場合は、踏み込みが悪い方の側へ鞭を入れられるようにして、必ずしも常に内方の手で持てということでもないらしい。
鞭は、この絵のように、鞭を持った側の腿の外側にぴたっと付けてふらふらしないように持つ。
ぶらぶら持つと馬の動きによっては、鞭が馬体に当たってしまう場合があり、馬は鞭をいれられたと思って急激な動きをして危険。
鞭が馬体に当たらなくても、鞭が馬から露骨に見えた瞬間に、鞭を入れられると思って反応する馬もいる。
短鞭を使うときには、鞭を振る手(利き腕で振れという)と反対側の手に手綱をまとめて持ち、片手で鞭を持って乗り手のアキレス腱の後ろあたりの馬腹に入れて、すぐに手綱を両手で持ち直すのが良い。馬は賢いから、このやり方で何発か鞭を入れると、手綱を片手でまとめて持っただけで、鞭を入れられると思ってまじめに走りだしたりする。そんなことで慌てないように。
馬の尻に強く鞭を入れてもいいらしいが、基本は乗り手の脚のすぐ後ろあたりらしい。
長鞭の場合は、鞭を持った手をすこし横に広げて、鞭の先端が馬の脾腹に触れるように使う。馬は驚かされるのを嫌うので、鞭もいきなりビシッと入れるのでなく、最初は使うタイミングでかすかに触れる程度、効果がうすければ軽く振ってチョンと当てる程度とだんだんと強度を上げる。
・鞭の左右の持ち替え方
・短鞭の場合: 短鞭を左右持ち替える必要があるときは下の絵のようにする。この絵は右手に持った短鞭を左手に持ち替える方法。
ストラップ付の短鞭の場合は、ストラップに手首を通していると持ち替えがスムーズにはできないので、手首は通さないでおく。
左手の手綱を右手に移して、左右の手綱を鞭を持った右手にまとめて持つ。左手は何も持たない自由な状態。 右手で左の手綱を持ったとき、下の絵のように、左の手綱は中指と薬指の間を通して持つ。 こうしておくと後で左手で左手綱を持つときに左右の手綱が混乱しない。 |
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空いた左手で、右手に持った短鞭を上に引き抜く。引き抜いた単鞭が馬を驚かさないように、馬の首の真後ろ方向(馬の死角)で引き抜くこと。 引き抜いた短鞭は、そのまま左手に持つ。 |
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短鞭を握ったまま、左手の四指を伸ばし、右手に持った左手綱を左手の薬指と小指の間に滑らせて握る。 |
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これで、短鞭は左手に移った。 |
・長鞭の場合: 踏み込を促したい後肢の側の手で長鞭を持つ必要があるので、どちらの後肢を踏み込ませたいかで持つ手を左右替える。
長鞭の場合は、鞭の根元をあらかじめ上に突き出しておいて鞭の中間に近い方を持って鞭を引き抜くようにすれば、短鞭の場合と同じようにできる。
(3)鞭の使い方
鞭は(A)馬を叱るとき、および、(B)歩度を上げるときや、後肢を踏み込ませるとき あるいは 乗り手に注意を向けさせるときに使う。
(A)叱るとき:
短鞭の場合、馬の肩から首の付け根近辺を鞭で打つ。恐々ちょこっと打つのでは叱っているんだと伝わらない可能性もあるから、強く打つ。
ただし、RRを読んでいたら「叱るために鞭を使っても無意味。ほとんどの馬は鞭打たれたことを叱られていると理解出来ない」と書いてあった。Hunter seat equitationにも、馬は鞭を入れられたとき、それが叱られているんだとは理解できないと書いてある。特に怒りにまかせて叱るのは厳禁。馬とつきあうには無限の忍耐が要ると。(馬術部にいた友人は、「言うことを聞かなかったら鞭で徹底的に叩き上げると、乗り手のいうことを聞くようになる」と、むちゃくちゃなことを言っていたが、馬術書を書いた先生から言わせると、酷評されそうだ。)
米国のあるオンライン馬術教室では、障害競技での例を挙げて、ともてわかりやすいことを言っていた。これには「なるほどねぇ」と至極納得。「飛越を拒否してフェンス(飛越すべきバー)の前で停止したとき、これを『止まるんじゃないよ』と叱るため鞭打っても無意味。鞭打つ人からみれば『止まっちゃいけない、ちゃんと跳べよ』というつもりで鞭打っているから、その意味は紛れもないが、馬からしてみれば、『跳ばずに止まったから鞭打たれた』とは判りようがない。単にそのフェンスの前に来たから鞭打たれたんだと思うかもしれない。そう思えば、次はフェンスを回避逸走し、フェンスの前に行かないことで、鞭打たれないようにするかもしれない。「跳ばない=鞭打たれる」という因果関係は乗り手の頭の中だけにあることで、馬にはそんな因果関係は判らないよねぇ。
こりゃあ叱らなければ、と思って鞭を振るのは考え直した方が良いかもしれない。しかし、まあ鞭で痛めつけて叱るのは無意味だろうが、道草を食いだしたときなど、「おいおい、ダメだよ」と鞭で注意する位はやっても良いのだろう。
(B)歩度を上げるとき あるいは 乗り手に注意を向けさせるとき:
一生懸命脚で進めの扶助をしているのに馬が前進気勢を示さないような場合に(先生は「馬がダレている」と言う)鞭を使って気合いをいれる。
また、馬の注意が乗り手に向いていないとき、舌鼓などをつかっても効果が薄い時にも鞭は有効。「ちょっとぉ、こっちに集中してよ」という感じ。
こうした目的には馬の肩(騎乗者の膝の前)に鞭を入れる。歩度を上げるときは馬の肩あるいは、尻を横から打つ。いきなり強い鞭を入れて馬を驚かせるのは禁物。最初は軽く触れるくらいにして、効果がないときには少しずつ強度を高める。
特に、脚の扶助が効かないときに鞭を使う場合も、いきなり強く打つのでなく、4段階で使えという、
①軽く触れる、
②皮膚を圧迫する、
③空気を打つ(鞭を振るが馬体には当てない)、
④馬体に当たるように振る、
の4段階。①で反応してくれたら、次の②以降の段階に進んではいけない。いきなり叩くと、馬に鞭に対する耐性ができたり、驚いて走り出したりする。驚くと何がおこっているか馬は理解できず、乗り手に対して非協力的な態度を取らせることになる。
肩を打つのではスピードがやや増す程度だが、尻(乗り手の足のすぐ後ろか、その斜め上後方)を打てば相当に速くなる。尻にちょっと強めに鞭を入れれば大抵は駈歩になる。ただし、鞭を入れて駈足させることができたからといって、駈け足発進ができたことにはならない。それは単に馬が驚いて走り出しただけの場合が多いから。
鞭を入れる場合は、急に走り出されてもバランスを崩さないように注意。特に、尻に鞭を入れると、体勢の準備ができていないときにダッと走り出されて反動で思わずガツンと手綱を引っ張ってしまいがち。馬にしてみれば、走れと言われて走り出したら手綱を引っ張られて急停車させられた、一体どういうことなのと混乱する。
鞭に対する反応は、馬により大きな違いがあり、バシバシ尻鞭を入れても全然動じない無頓着な馬から、ちょっと触っただけでパッと走り出す馬、あるいは、尻鞭を嫌って(走る代わりに)尻を跳ね上げる馬、鞭を入れられた側の足を横に蹴り上げる馬、といろいろ。尻を跳ね上げる馬の場合は、気をつけておかないと跳ね落とされかねない。落ちると、馬は「落としたら鞭を入れられずに済んだ」と思って、ますます鞭に対してハネるようになって悪循環。
また、鞭を使ったら効果がないのに使うのを止めてはいけない。たとえば、鞭を入れたときにこれを嫌って尻っぱねしたときに、乗り手がこれを怖がって鞭を入れるのを止めると、馬は尻っぱねをすれば鞭を入れられずに済むと覚えてしまい、鞭に対して跳ねるという悪い癖を付けさせることになる。
障害の直前で飛越の勢いをつけるために鞭をいれる人がいるが、飛越直前に鞭を入れているようなひとは、(youtubeなんかだと)だいたい落馬してるなぁ。ハンターシートの教本には、障碍の前で鞭を入れても良いようなことが書いてあるけれど。。。。