馬装と手入れ | |
馬の状態と耳 | 馬装と手入れの注意点 |
馬装の手順 | 鞍の付け方・外し方 |
鐙の固定 | 頭絡の付け外し |
ブラッシングなど | 裏掘り |
曳き馬と調馬索 |
馬は大変臆病だから、ちょっとしたことに怯えたりして暴れる。馬は怖いことから逃げようとしているつもりだが、馬の重さは人の7-9倍、力は何十倍もあるから、押しつぶされたりしたら人間はひとたまりもない。馬を仕事として扱っている人でさえ蹴られて死んだ、馬房で馬に挟まれて死んだなどの事故がある。まして、素人はよくよく注意して接する必要がある。
どんなときでも気を緩めないことが大事。
馬がどういう状態なのか(落ち着いているのか、不安を感じているのか、など)を常に観察していなければいけない。馬の精神状態は耳に端的に現れる。われわれ素人は耳で判断するのが簡単。
耳を両側に開いているのは安心、リラックスを示す。 | 二つの耳を立てて、ピタッとそろえて動かさない。耳の向いている方向に、注意力を集中。 | 耳をくるくる回して動かしているのは、なにか怪しいことはないかな、と警戒状態。 | 耳の穴を下に向けて耳を後ろに伏せているのは、攻撃や威嚇。 上位の馬が自分より下位の馬を脅して追い払うときも、この耳を見せるだけで追い払えるほど。 |
この状態では、馬を驚かさないように「これから人が近づくよ」と判らせて、前方から馬に近づいても大丈夫。 ただし、近づいて耳を伏せられたら、それ以上近づかない方が無難。 |
こういう状態の馬に、うかつに近づくと何をされるか判らない。攻撃的になっている原因を取り除いてからでないと近づけない。 |
耳の動きのほか、馬の特徴的な動作に「前がき」がある。前肢を上げて地面に叩きつけて手前に引く動作。この動作は雪の下に埋まった草を掘り出したり、土の下の草の根を掘り出したりしていた動作の名残だということだが、馬の欲求不満を表している。
水が飲みたい、エサが欲しい、馬装を外して欲しい、というような欲求がある場合に前がきをする。
上唇を剥いて笑っているような表情をすることがある。これは臭いを嗅いでいるので、笑ったり、噛みつこうとして歯を剥いているわけではない。
馬は臆病・恐がりだけれども、そんなにしょっちゅうビビりまくって「何するか判らない状態」になるわけではない。普通は大過なく平常に戻る。ところが、本当に恐怖に駆られると全身がブルブルと震え出す。乗っていれば、脚(内股、脹ら脛など)にハッキリとブルブルという振動が伝わってくる。怖くて震えるというのは本当なんだと判る。こういう状態になったら、恐怖から逃れるために大暴れ・暴走してもおかしくないから、すぐに馬を下りるほうが無難だ。乗ったままなんとかしようなどと考えないほうが、多分良いんじゃなかろうか。
馬は大変賢いが、いろいろなことを総合・論理的に考察するなどできない。そういう意味ではとんでもないバカ。「賢いのだから、そんなことをするはずがない。大丈夫だ。」といった考えをしていると危険。「この仔はとてもいい仔で、可愛いのよねぇ」などといって子犬に接するように馬を扱う人がいるが、とても危険。
馬の顔の前に自分の顔を近づけていたら馬が急に顔をあげたために、馬の鼻づらに自分の鼻が激突、鼻の骨(もちろん人の)を折ったというような話もある。馬に悪気はまったくなくても、馬力があるので、ぶつかったら人の鼻の骨など簡単に折れてしまう。馬が急に噛み付いたり蹴ったりしないという保障はないし、もしそうされても馬に文句は言えない。馬はそういう動物なのだから。
また、馬は嫌なことをされたことをとても良く覚えているから、平手で顔を叩かれたりしたことのある馬は、頬をなでてやろうと平手を近づけただけでビビったりする。こういういやな経験は一頭ごとに違うし、馬の個性の違いもあるから、この馬で大丈夫だったことが、別の馬でも大丈夫という保障もない。
一般的には、次のような行為は危険なので絶対にしてはいけない。
やってはいけない行為 | 危険性 | 備考 |
洗い場で馬をつないであるロープの上を跨ぐ | 馬が首を上げたときにロープが急に持ち上がって、股間を打つなど、ケガをする。 | 馬が首をさげていると、馬の反対側へ渡ろうとしてついやってしまいがち。 |
手綱や引手などを馬の近くの地面にたらす | 馬がこれを踏みつけて頭を上げるとロープが切れたり、馬がパニックになったりして大変危険。 | 最悪頭絡まで外れてしまう。 |
馬の腹の下や、脚の近くでしゃがみ込む、お尻を地面につける、顔を脚の近くに近づける | 馬が暴れたり、蹴ったりしたときに逃げられない。 | アブなどがいると、馬はこれを追い払おうと突然脚を蹴り上げたりとても危険。 |
馬の顔や尻の近くに無防備に近づく | 噛み付かれたり、蹴られたりする。 | |
馬が嫌がっているのに、無視して嫌がることを続ける | 限界を超えると、馬がキレて暴れる可能性がある。 | 腹帯の締めすぎも、嫌がって暴れる可能性あり危ない。 |
馬の近くで大きな音を立てたり、急激な動きをして馬を脅かせる | 馬がパニックになって暴れる可能性がある。 | 馬のまわりで、大音・急激な動きは厳禁。 |
馬と周囲の壁・柵などの間の狭い場所に躰を入れる | 馬と構造物の間に挟まれて、押しつぶされ怪我をする。 | 必ず馬を動かして広い空間を確保してから躰をいれる。 |
馬に安全に近づくには斜め前方から馬の肩へ向かって近づく。こうすれば、馬は「ああ 人が近づいてきた」と判るので馬を驚かせずに済む。
肩のまわりというのは、
<1>首を曲げて噛み付こうにもやや距離があり、歯が届きにくいし、逃げる余裕もある、
<2>蹴ろうとしても後ろ脚は届かず、前脚で横は蹴れない、
ということで馬の回りでは一番安全な場所。手入れするときもできるだけ肩の周りに身を置けば安全。
洗い場の中で馬の位置を変えたいというようなときは、馬の体を押して、あるいは無口を引いて、動かすが、馬は強い力で働きかけると反発する。馬を横にずらせたい場合にも力一杯押しても押し返されて動いてくれない。弱い力でゆっくり押せば動いてくれる。だめでも辛抱強くゆっくり押して動かす。
馬が蹴るというと「後肢で真後ろを蹴る」ことを想像して、真後ろに立たずに横(馬の腰の横)に立てば安全だと思うかも知れないが、馬の股関節は柔軟なので後ろ肢で真後ろだけでなく横も蹴れる。
前肢は関節の自由度が小さいので、前方を蹴る(前方へ肢を蹴りだすか、後肢で立ち上がって前肢を振り下ろして蹴る)ことができるが、真横は蹴れない。
顔の周りに不用意に立っていると噛みつかれることがある。よく馴らされて人に敵意をもっていない馬はいきなり噛みつくことはないが、驚いたり急に恐怖心をもったりすると、防衛のため、あるいは攻撃のために、噛みつくことがある。首を曲げて肩の近くも噛みつくことがでる。こんなの見ると馬が悪いようにも思えるけど、いろいろ経験してその結果、こうなったんだろうなぁと思うしか無い。
馬の体の周辺で比較的安全なのは肩の回りだが、噛みつきには要注意。また、左肩の近くに人がいることに慣れているので、特に必要がなければ右側には立たないようにする。
馬とスキンシップを取りたくなっても用が無ければ馬の近くには立たないことが第一の安全策。蹴ったり噛んだりする悪い癖のない馬でも、あまり近くにいるとちょっと馬が動いたために足を踏まれることもある。
こちらには、馬にバカにされ、腹立ちまぎれに叩いたら噛みつかれたというとても興味深い話が紹介されている。
乗馬クラブにはめったにいないと思うが、尻尾に赤い布をつけているのは、蹴り癖があるよという標識。こんな馬の尻回りには決して近づいてはいけない。
こちらには、動画をつかったすばらしい解説がある。一見の価値がある。
馬房にいる馬は、蹄にオガクズなどが詰まっていたり、背中にゴミなどが付いていたりするから、そのまま鞍を載せて馬場に出して乗ると言うわけにはいかない。馬体を掃除して、脚の保護具(プロテクターなど)を付けたりの準備が要る。洗い場に連れ出してからの、一連の手順は以下の(1)から(5)の順。
(1)馬体からゴミや異物を取り除くブラシ掛け
特に背中に異物があると、鞍を載せたときに、鞍との間に挟まった異物が馬に痛みを与え、これによって馬が跳ねたりして危険。小さな石粒など無いように気をつけよう。
ブラシ掛けの注意はこちらを参照。
(2)足回りの準備
・裏掘り: ブラシ掛けが終わったら、蹄の裏にオガや小石、異物などが入っていないか確認して、入っていれば鉄爪(テッピ)で取り除く。馬房に敷き藁でなくオガをしいていると、まず確実にオガがびっしり詰まっているから、必ず取り除く。
裏堀りのやり方はこちらを参照。
・プロテクター: 運動中に馬が自分の脚と脚をぶつけて怪我をしないように、プロテクターを付ける。プロテクターは脚の球節を保護するように、ポロテクターのプラスティックなどで出来た固い部位が球節の内側を保護するように付ける。
やや縦長と短い感じのものと2種類あるときは、やや長いものを前肢に、短いものを後肢に付ける。いろいろな種類のものがあるから、クラブでどのように使っているか確認してから付けよう。付けないクラブもある。
(3)装鞍: 足回りが準備できたら、鞍を載せる。ゼッケンなどを載せる前にもう一度背に異物がないかどうか確認しておく。鞍を載せたら、腹帯は締めすぎないように適度に締めておく。キッチリ締めるのは、騎乗して少し歩かせてから。
鐙皮の長さも調整しておく。長さを調整した鐙は頭絡を付ける作業中は、面倒だがブラブラしないように上げておく。
鞍の付け方はこちらを参照。
(4)頭絡を付ける: 無口を外して、頭絡を付ける。頭絡の付け方はこちらを参照。
(5)馬場へ引出し、鐙を降ろして騎乗。クラブによっては、洗い場から騎乗して馬場に入るようにしているクラブもある。そのクラブのやり方に従う。馬場に入って少し歩いたら、腹帯をしっかり締める。
乗り終わって、馬装を解くときは以下の(1)~(5)の順。
(1)洗い場に繋ぐ
馬場から洗い場まで誘導して、洗い場で頭絡を外し、無口を付けて洗い場に繋ぐ。
これをやる前に、腹帯を緩めてもよいが、この作業はそんなに時間が掛かるものでもないから、腹帯を緩めるのは無口を付けて馬を洗い場にしっかり確保してからで良い。
(2)プロテクタなどを外す
(3)鞍を外す
(4)汗を拭くなど馬体の清掃
・汗と泥を取る: 絞ったタオルなどで身体を擦り、汗を取り去る。
夏場など汗を沢山かいているときは、ぬるま湯で馬体を洗う。洗うときは脚から初めて、徐々に胸や腹、股間や、背中・尻にぬるま湯を掛ける。ホースでぬるま湯を掛けただけでは汗が落ちない場合があるから、ぬるま湯を掛けながらシャンプーミットや水洗い用ブラシなどで擦って汗を充分に落とす。
体温が上がりすぎていて冷やす必要があるときは、血管が皮膚に浮き出ているあたり(たとえば股間、太腿内側など)に水を掛けて体温を下げてやる。
洗った後は、汗コキで水分をざっと落として、そのあと乾いたタオルで良く水気を拭き取る。脚の細いところは充分にマッサージしながら水気を拭き取る。水分が溜まっていると皮膚病などになりやすい。
汗をかいていなくても、泥だらけの馬場を運動して脚がドロドロになっているときも、ぬるま湯で脚を洗い、泥を流しておく
・蹄油を塗る: 蹄の泥をとってタオルで水気を落としたら、蹄油を塗っておく。
(5)馬房に戻す
鞍の付け外し動作はゆったり行なうが、もたもたやってもいけない。嫌がっているのにもたもたやると、鞍付けを拒否する馬になる可能性がある。
これから何をしようとしているのか、馬に判るように鞍などは馬に見せてから装着する。また常に、馬の全体を見るようにして嫌がっていないか、神経質になっていないか?などに注意。もし、神経質になっているようなら、落ち着かせるよう声を掛けて、落ち着くのを待つ。
鞍は用途によって形状が多少異なるが、基本的には下の絵のような形。
鞍の前方高くなったところを前橋、後部の一段と高くなった部分を後橋と言い、この中間よりやや前の一番深くなった部分が鞍壺。鞍縟はクッション、馬の背を保護。
あおり革(あふり革)は2重になっており、内側の革は腹帯の留め金(バックル)の出っ張りなどから馬の腹を保護。外側の革(左の絵で見えている部分)は、腹帯の留め金の出っ張りなどから騎乗者の脚を保護。馬場鞍では下方に長くなっており、障害鞍では短く、かつ、前方にせり出すように出っ張っていて障害飛越の姿勢やツーポイント姿勢がとり易く作られている。
左の絵は左側の鐙革と鐙革托鐶。托鐶(たっかん)は、資料によっては「托環」と書かれていたりする。辞書を引くと「環」は玉(中国で珍重された宝石)の輪、「鐶」は金属の輪、意味はどちらも「わ」「指巻き」などで両方とも同じと書かれている。本来は金属製だから「鐶」なのだろう。しかし、露出部分の構造は「わ」にはなっていない。もともとの英語名称は「bar」(棒)だから、「鐙革掛け金具」ぐらいが良いのではないかと思うのだが。。。
鐙革托鐶は鞍骨(木などで作った鞍の骨格)に作りつけられているので、鞍に半分埋め込まれており、小あふりをめくって見ると、左の絵のように引っかける部分だけが露出して見える。
托鐶は、引っかけるバーのようになっており、鐙革を後方へ引っ張ったら抜けるようにしてある。
鐙革はバックルで止められて、左の絵のようにループ状になっている。このループを小あふり革をめくって露出させた鐙革托環に引っかける。普通は鐙革は托環に掛けっぱなしで、鞍を外すたびに鞍から外したりはしない。
托鐶の先端に上の絵のような開閉式の金具がついていて鐙革を通すときは開いておいて、鐙革を通したあとこれを閉めることで、鐙革が通常の使用では、ずれて外れないような構造になっているものもある。
鐙革の長さの調節が終わってバックルを留めたら、バックルが托環にカチッとはまるまで内側の鐙革を下へ引き下ろしておく。これがちゃんとはまっていないと、バックル部分が出っ張って、小あふりが部分的にコブになって、内股とこすれることになって擦過傷を負うことになる。
鐙革が分厚い新品、鞍が古く小あふりがよれよれというようなときは、バックル部分が出っ張って内股が赤剥けになることがあるので、注意が必要。
馬に載せるのは、この絵のように、ゼッケン(汗取りゼッケン)、その上に場合によって低反発の衝撃吸収材でつくったゲルバッド、その上にボアゼッケン(やや毛羽立ったふかふかしたゼッケン)、最後に鞍の順。
ただし、ボアゼッケンは鞍とおなじような形状をしており、鞍に半固定的に留められている場合もある。馬具の管理がしっかりしているクラブは別として、この二つを分けて別々に置くことをしないクラブもある。そういうクラブでは、ボアゼッケンと一体となった鞍を一度に載せてしまうのが普通。
ボアゼッケンを使わないクラブもある。
ゲルパッドは馬の背中を保護するために、ゼッケンと鞍(ボアゼッケン)の間に敷くもの。必需品ではないから、担当の人に、ゲルパッドを敷く必要があるのかどうか確かめる。
いい加減なクラブでは人が寝具として使う毛布を折りたたんで汗取りゼッケンとして使っている。この毛布スタイルは、ダサくて恰好が悪いので嫌いだが、自分の馬でも鞍でもないし文句を言う筋合いではない。
鞍を載せたとき、ゼッケンの前縁、ボアゼッケンの前縁、鞍の前橋の三つが階段状になっていなければいけない。ゼッケンの前縁がボアゼッケンの前縁より引っ込んでいるようではダメ。
鞍を置く位置は鞍壺(鞍の最も低く窪んだところ)が馬の背中のもっとも低くなったところよりやや前に位置するようにゼッケンの前後位置を合わせる。正確には、馬の背の低いところに合わせるのではなく、馬の肩甲骨の位置を基準に鞍をおく。こちらに大変判りやすい解説がある。
馬の体型(き甲の高さなど)にあわせた鞍が必要なので、どの馬にどの鞍を載せるのかは係りの人の指示に従う。自分の馬を持ってもいない人に、鞍を買えと押し付けるクラブがあるようだが、鞍は馬に合わせて作るもの。自分の鞍があれば上達が速いですよとかも言われるそうだが、信じられない。もっともWeb上では「自分の鞍を買って、上達に役立った」と言っている人もいる、プラシーボ効果かな。
馬装の手順は以下の通り。
鞍をつける場合
(1)ゼッケン(ないし毛布)を載せる。
馬を驚かせないように、馬にゼッケンを見せながら近づき、馬の左肩の横にたって、そっとすばやくゼッケンを置く。
鞍を置いたりしているときに、ゼッケンはどうしても後ろへずれるので、やや前よりに置いておく。き甲の高いところがやや隠れる程度の位置。
ゼッケンを置いたら、馬の前に回って、前方から見て左右均等に載せられているかを見て、ずれていたら、直す。
(2)次に鞍を置く。
鞍は左前腕を前橋の下に差込み、下から支え持つ。右手は後橋の下から手をいれて持つ。鞍の重さの大部分は、左前腕に掛ける。
これら鞍を載せることが馬に判るように、鞍を見せながら馬に近づき、馬の左肩の横に立って、左手の手のひらを広げて(手のひらは自分の方に向ける)、
鞍の右側のあおり皮の部分を内側から押し上げるようにして持ち上げる。
右手は鞍の後橋あたりをもって鞍が右にずれ落ちないように支える。これで鞍が大きく開くので、馬の背に載せ易くなる。
開いた鞍を、ゆっくりと馬の背に鞍を置く。
置いたら、鞍の各部やボアゼッケンが巻き込まれていないかをチェックし、もし皺のよった状態で鞍と馬体の間に巻き込まれていたりしたら、引き出して、皺や巻き込まれが無いようする。
(汗取り)ゼッケンの前縁、ボアゼッケンの前縁、鞍の前橋、という3段の階段のような前後関係になるように注意。
左側のチェックが終わった状態。
次に反対側(右側)へ回って、右側で上と同じ確認、調整を行なう。
反対側へ回るときは、馬の顔の方を遠回りして回る。危ないから馬をつないであるロープを跨いだり、腹や首の下を潜ったりして反対側に回ってはいけない。
(3)鞍ずれで鞍傷ができないように、き甲の部分の汗取りパッドを充分に浮かせて空間の余裕を作る。
右側にも巻き込みなどが無いように調整して、鞍の前後位置を合わせたら、鞍ずれで鞍傷ができないように、き甲の部分の汗取りパッドを充分に浮かせて空間の余裕を作る。
右の手のひらを右の図のような形にして、鞍が後ろへずれないように左手で鞍の後橋を抑えて、右手を指先から馬体とゼッケンの間に差し込む。
差し込んだら指はまっすぐにして、根元から曲げるようにして手の甲をグッと上に膨らませてゼッケンを押し上げて空間を作る。
鞍の前後位置を合わせるとき、ゼッケンを前に動かすのは、毛並みに逆らう方向なのでNG、あらかじめ前よりに載せておいて、後ろに多少ずらせて調整。
(3)腹帯を絞める
腹帯を鞍の上からこちら側(右側)へ引いて、そっと下へたらす。
馬具の扱いの丁寧なクラブでは、鞍と腹帯はつながっていない状態で置いてあるので、鞍をおいてから、腹帯を鞍に取り付けて、以下の手順に進む。腹帯には、ゴムの伸縮が付いているものもある、ゴムの伸縮がある方が左側になるように装着する。
腹帯を締めるために、馬の左側へ回る。左側へ回るときは、馬の顔の方を遠回りして回りする。
マルタンガール(マルタン)を付ける場合は、この段階でマルタンを馬の首に巻き、この絵のように、マルタンの後端に腹帯を通しておく。
馬の左側に回ったら 右手を伸ばして、腹帯を手前に引き寄せる。
マルタンを付けている場合は、マルタンの後端が馬の腹の真下(中心)にくるように左右を合わせる。
腹帯の先端側を左手で取って、右手の甲を腹帯の内側に当てて、腹帯に張りをもたせながら手前に引き上げて、
馬の左側から、腹帯を引っ張りあげて、あおり革をめくって、腹帯たっ革を腹帯のバックルに通して留める。鞍に革は3本ついているが、真ん中の一本は予備。両側の革が切れていないかぎり、両端の2本を腹帯にバックルで留める。バックル(尾錠)の上に保護カバーの革をしっかりかぶせて、尾錠で鞍のあおり革が傷つかないようにする。
このとき腹帯はぐい、ぐい、ぐい、と小刻みに締めずに、じわーっといちどきに締めて、軽く留める。小刻みにやるのは馬が非常に嫌うので、機嫌が悪かったり、鞍付けに慣れていない馬だと、嫌がって立ち上がってしまうこともある。しっかり締めて留めるのは、馬場へ引き出してから。
鐙は馬場へ引き出して乗る寸前まで揚げたままにしておく。
マルタンを付けている場合は、馬が首を下げたときにマルタンの馬の首に掛けている輪が前方へ抜け落ちないように、輪の上部を紐で鞍に結んでおく。手綱をマルタンの先端の輪に通したら、この紐は外す。
鞍をはずす場合
鞍を外す手順は以下の通り。鐙は、馬を洗い場へ連れて来る前に、馬場内で馬から下りた直後に揚げて置く。
馬の左側に立って、あおり革をめくって腹帯のバックルを外す。バックルを外したら、腹帯をそっとしたへ垂らす。
次に反対側(右側)へ回って、垂れている腹帯を救い上げて、鞍の上から反対側(右側)へ垂らす。
馬の左側に回って、鞍の上にまわされている腹帯の先端を鐙に通して、ぶらぶらしないようにしておく。鞍と腹帯を分離しておいておくクラブでは、腹帯を鞍から取り外してから、鞍を外す。
鞍の前橋に左手を沿え、右手で鞍の後橋をゼッケンもろとも、ぐいっと上に持ち上げながら手前に引いて馬の背中からずらせる。
これで、鞍はその重みでゼッケンもろともずるずるとこちら側へずり落ちてくる。鞍の前橋もずり落ちてきたら、左の前腕をすばやく前橋側のゼッケンの下へいれて、鞍をゼッケンもろとも前腕で掬い上げる。
この方法だと、鞍全体を「よっこいしょ」と力をこめて上方へ持ち上げる必要がなく、大変楽に鞍を外すことができる。
絵のように左の前腕で鞍をゼッケンもろとも掬い持ち、右手は鞍の後橋部分から差し入れて鞍を持つ。
鞍を外したら、速やかに馬の傍を離れる。
鞍は所定の場所において、ゼッケンは二つに畳んで、鞍の上に置いておく。こうしておけばどのゼッケンとどの鞍がペアなのかはっきり判る。
馬から下りて、馬を洗い場などに引いてゆくとき、あるいは、洗い場から馬場に引き出すときなど、鐙がぶらぶらとぶら下がっていては危ない(馬が足を引っ掛けたり、敏感な脾腹にゆれて当たる)ので、上に上げて鞍に固定しておく。
馬が鐙に脚を引っ掛けるなど信じられないようなことだが、放牧場で馬が無口に後脚をつっこんで倒れているのを見つけるのが遅れたために死んでしまった話がWebに紹介されていたが、今はページが削除されていて残念ながら読むことができない。馬は体が大きいので長時間無理に寝かされているだけで死に至るような障害を負ってしまうらしい。
通常、鞍を保管してある状態では、鐙は引き上げて固定されている。
鐙革の最下部を右手で下にぐっと張っておいて、鐙を左手で持って、鐙革の内側の方にそってバックルの位置まで上方にぎゅーっと押し上げる。輪になった鐙革の手前側の革に鐙を持ち上げる方法もある。
ぶらんとぶら下がっている、鐙革の輪を一本にまとめて、
この絵の緑の矢印のように鐙の下、馬体側から外へ引っ張り出して鐙革を外側から押さえつけるように後方へ折りたたみ、バックルからはみ出てあまっている鐙革を通して、この余りを鞍についている鐙革とめに通す。
この止め方は、いままで何度かああでもないこうでもないと説明し直したが、どうやらこの方法がもっと仕上がりがきれいでスマート。
ただし、いろいろな教本に解説がないところをみると、簡単に留められて、外すときはまた簡単に外れる、けれども自然に外れてしまうことがないような結び方ならなんでも良いらしい。
馬房から出された馬は通常、馬繋場あるいは洗い場に左の絵のような状態で繋がれている。
絵では綱が短く描かれているが、実際はもうすこし綱が垂れ気味に緩く繋ぐ。ただし、あまり長くして馬の口が①や②にとどくようだと、馬が結びを解いてしまうこともあり得るので、届かない長さにとどめること。
この状態でブラッシングなどの手入れをしたり、鞍を付けはずししたり、頭絡の着けはずしをしたりする。
頭絡をつけるときは、馬をつないでいる引手の綱の無口側のフックを外して、①②の結び目はそのままにして引手の綱は地面に垂れている状態になっている。乗り終わって馬を馬繋場に結ぶときは、①②の結び目はそのままに、引手の綱のフックを無口に掛けてつなぐ。なので、①②の結び目を自分で結ぶことは馬を馬房から引き出してきてつなぐとき以外はないと言ってよい。また、綱でなくてクサリをつかっていて、①②は外れないように固定されている場合もある。
自分で馬を馬房から引き出してきたときは、曳き馬に使った引手の綱を②に結び付ける。
この結び方には何通りかの方法があるが、簡単でよく使われる方法は以下の通り。なお、絵では金属の環に引綱を直接通しているが、これだと何らかの理由で馬がパニックになって暴れだしたときに引綱が外れないので危ないから、環に細めの紐を通して環を作り、その細い紐の環(馬が暴れたら切れる)に引綱を通すべきだというガイドもある。
良く使われる結び方 | |||
引綱の自由端を環に通した後、右の絵の②ようなループを作る。 | ①の部分を②のループの中を下からくぐらせて引っ張り出す。ただし、全部を引っ張り出さず、15cmほどループ状に引き出す。 | これで、上の絵のような結びができる。結び目を軽く引き締めて出来上がり。余った引綱(赤の末端)を引けば簡単に外れる。 | |
余った部分を引っ張ると解ける結び方 | |||
この結び方は某乗馬施設でお勧めの方法。 曳き綱をまっすぐ環に通して、 ①の部分を下を手前に一回転ひねる。 ひねって出来た輪に、余った曳き手をこちらから向こうへ通す。 |
③無口側の曳き手を引き締める。 図の②の部分を持って、無口側の綱を引っ張るときれいに締まる。 |
十分引き締めて結び目を小さくまとめたら完成。 ほどくときは、余っている曳き手を引っ張れば、綱は環から外れる。 |
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引綱の中間を環にくぐらせ、②のループを作り、この中に①を通す。①は全部通しきるのでなくて、10cm程度の長さのループに引き出しすだけ。 |
引き出してできた②のループに、①をくぐらせて、ここでも、①は全部通しきるのでなくて、10cm程度の長さのループに引き出しすだけ。 | 同じことをどんどん繰り返して、上の絵のような状態にする。2,3回の繰り返しでは無口側が強く引かれた場合、結び目がほどけてしまうので、6-7回は繰り返しておく。 |
ビジターで行けば、頭絡は係りの人がつけ外しをしてくれるが、外すくらいのことは、やらせてくれと言えばやらせてくれるクラブもある。当然だが、つけるよりも外すほうが簡単。
ハミをつけるとき、素直に銜えてくれる馬ならいいが、ちょっと難しい馬に素人がゴチャゴチャもたもたやるとハミを銜えるのを嫌がる馬になる可能性があるので、装着はビジターにはやらせてくれないクラブが多い。
会員になれば自分でやらなければいけないクラブもある。
無口(無口頭絡とも言う)は左の絵のような形をしており、馬にハミをつけていないときは、これをつけておく。馬房の中でも無口はつけておくことが多いかもしれない。
馬の左頬のところで引っ掛ける金具があり、馬に無口を付けたり外したりするときは、このフックを外して装着・取り外しをする。
無口をつけるときは、このフックを外しておいて鼻革の輪の部分に馬の鼻先を通し、額革を馬の頭に掛けてから、フックを掛ける。
無口を外すときは、まずこのフックを外しておいてから、額革を頭から抜いて無口全体を馬の鼻面方向に滑らすようにして外す。
調馬索で運動させるときも、この無口をつけて、調馬索は無口の鼻革の脇の金具に結びつける。馬を洗い場などにつないでおくときも、鼻革の脇の金具のところに鎖やロープをつないで馬を留めておく。
右側のハミは水勒銜(すいろくハミ)というもっとも一般的なハミ、初心者にはこれを使う。ハミには銜環(はみの両端に付けられている金属製の輪)がついており、銜環には手綱と頬革が付けられている。
環の部分(銜環)の形が丸でなくD字型をしていたり、ジョイント部分にもいろいろなバリエーションがある。
ハミは馬の舌の上にのせる恰好で馬の口にくわえさせる。手綱を引くと舌が圧迫され、ハミのジョイント部分が折れ曲がって(水勒ハミの場合)口蓋が圧迫され馬に強く働き掛ける。材質はステンレスなどだが一部ゴムなどを使うものもある。
上の写真の左側の大勒ハミはウェスタンなどで使うが、静岡の先生は時々このタイプのハミを使う馬に乗せてくれる。梃子の原理が強く働き馬の口への圧力が強いので、手綱は緩めに使いなさいと言われる。たしかに、ちょっと引くと強いブレーキになる。
頭絡(水勒の例)は左の絵のような形状をしており、ハミを馬の口に固定しておく役割をはたす。こういう形に限らず、いろいろな形状のものがある。左の絵はもっとも一般的なもの。
項革(うなじかわ)は馬の頭に掛け、額革は馬の額部分にかけられるので、馬の耳は項革と額革の間から出る。
頬革は長さを調整できるようになっており、頭絡を装着したとき馬の口の脇にハミに圧迫されることによるシワが1-2本出来る程度に長さを調整する。
鼻革は頬革よりも内側に付ける。頬革を鼻革で巻くように取り付けてはいけない。
頭絡の名称としての「大勒」は大勒ハミと水勒ハミ(小勒ハミと呼ぶ。小勒ハミと水勒ハミは物として別物なのか同じものの呼び方の違いだけなのか知らない)を同時に使うようになっている頭絡のこと。従って手綱もそれぞれに一本ずつで計2本を同時に使う。ブリティッシュの上級馬術では、大勒を使う。その場合はもちろん馬も大勒で調教されている必要がある。
頭絡(水勒)の着け方
頭絡の着け方は下の絵の順序に示すとおり。頭絡を外して無口をつけるときは、おおむねこの逆の順序で行う。ただし、頭絡を外すときは、無口を付けるまで、手綱を馬の首に掛けたままにしておくから、無口を付け終わって手綱を馬の首から外すときには、手綱を輪状につないでいる留め金を外さないと手綱が無口を止めるロープに絡まって取り外せない。これを避けるためには、無口を手綱の下をくぐらせてから装着すればよい。
付けたりはずしたりしている途中、馬に何も装着されていない状態で馬が何かに驚いたりすると大変危険。こういう状態は極力短時間で済ませる。頭絡をつけるときも、手綱などを先に馬の首にかけておいて手綱を抑えれば馬を抑えられるようにしておくなどの気配りが大切。
これから何をするかが判るように、頭絡を馬に見せながら馬の左前から馬に近づく。
馬の頭の左に立てるように、無口の左側につないである鎖ないしロープを外す。
馬の顔の前(正面)に立って頭絡をつけようとすると、馬には頭絡が大きく見えてプレッシャーになるので、必ず頭の横に立ってプレッシャーを与えないようにする。
手綱を馬の首に掛ける。頭絡は右手で束ねて持つ。
マルタンを付けている場合は、手綱を馬の首に掛けるときに、手綱をマルタンの穴に通してから首に掛ける。
馬の首に掛けているマルタンの輪が抜け落ちないように鞍と結んだ紐は、馬を馬場へ引き出す前には取り去っておく。
無口の左頬にある金具(フック)を外して、無口を馬の頭から外す。
外した無口は近くに邪魔にならずに引っ掛けておけるところがあれば、そこに引っ掛けておくが、掛けて置いておくところが無ければ、左腕に引っ掛けて持つ。地面にべったっと投げ出しておいて置くのは良くない。
右手は馬の顔の右側に回して馬が首を上げてたり動かしたりするときは、右手で顔を抱えて抑える。
馬の顔の右側に回した右手で項革の部分を持ち上げて、
この絵のように、左手の手のひらにハミを載せて馬の口にあてがう。手のひらにハミを載せて銜えさせれば噛み付かれることはない。
上の歯と下の歯のちょうど間にハミをあてがってやって左の手のひらで口の中へちょっと押してやれば、馬は口を開いてくれるので、すばやく右手を上に揚げてハミを銜えさせる。
訓練された素直な馬なら、これで口を開けてハミを銜えてくれるが、口を開けてくれなければ、
この絵のようにハミを支えている左手の親指を口の脇に入れて動かして口を開かせる。
もたもたやるとハミを銜えるのをいやがるようになる恐れがあるので、怖がらすにしっかり口を開けさせ、歯の間にしっかりハミを入れ込む。歯に金属製のハミがガチャガチャ当たるのは馬にとってとても嫌なことなので、ハミが歯にぶつからないように注意。
もたついてハミが馬の歯にカチカチあたると、馬はこれを嫌がって上の絵のように指を突っ込んでも口を開けてくれないことがある。こうなったら、無理に続けず、ハミを離して少し時間を置いてもう一度最初からやり直す。注意深く見ていると、ハミを最初に口に近づけたとき、わずかにではあるが馬が口を開け上下の歯の間に隙間ができるタイミングがあるのが判る。これを見逃さずに、すばやくハミを(歯にあたらないように)上下の歯の隙間に入れ込むことが肝要。
馬がハミを銜えたら、項革を馬の頭に掛ける。
このとき馬の耳が邪魔になるから、左右一方ずつ手で押さえて抑えた耳の上を項革をとおして項革がしっかり馬の頭に掛かっていることを確認。
耳が折れ曲がって痛くないだろうかと気になるが、さほど痛くはないそうなので、手でギュッと耳を押さえて項革を掛ける。
項革がしっかり頭に掛けられ、両耳がきちんと項革と額革の間から出ていることを確認したら、咽革と鼻革のフックを掛けて頭絡が抜け落ちたり、ずれたりすることがないようにしておく。
咽革は馬の顔と咽革の間に拳が入る程度の余裕を持たせて締める。
鼻革は指二本がはいる程度の余裕を持たせて締める。鼻革は馬の鼻面に直接まき締める。頬革を鼻革で巻いてはいけない。
これで、頬革と鼻革を締めて頭絡の装着が完了。
折り返し手綱の着け方
「折り返し手綱」というのはその名の通り、鞍に結び付けた手綱をハミ環を通して折り返して騎乗者の手に保持させるもの。
馬装手順としては、鞍を着けて、頭絡を付けて、その後に装着する。左右の折り返し手綱が連結されて一本になっている場合(たいていは連結されて保管されている)は、連結部分を馬のき甲あたりに掛けて、先端側をハミ環の外側から内側へ通す。ハミ環を通した先端は、手綱の内側を通るようにして、鞍の腹帯託革の下を通して先端から数十センチのところにある尾錠に留める(腹帯託革に縛り付けるイメージ)。反対側も同様。
これは、馬が頭を上げるとハミに強く作用して、馬に鼻面を上方に突き出すと不快感(痛み?)を与えることで、馬の首を下方に誘導してハミ受けをした姿勢を取ることを促す為に使われる。
だから、いつもこの折り返し手綱を使わなければいけないものでは無いが、初心者にハミ受けの練習をさせるため(ハミ受けをした状態を比較的容易に作り出して、乗り心地を体感させる)、あるいは、ハミ受けを教えられていない馬を調教する場合などに使用される。
折り返し手綱の効きが悪い場合は、腹帯託革に結びつけるのでなく、腹帯の中央部に前肢の間を通して結びつける。
ただし、こういう道具を使っても、馬にしっかり推進扶助を与えることができないと、ハミ受けはさせられないから、まったくの初心者が「便利な道具たあるから使わせろ」と言っても、たぶんも上手く行かない。推進力不足だと、折り返し手綱の抑制力を「止まれ」の扶助だと誤解するから前に進んでくれず、練習にならない恐れもある。
折り返し手綱の握り方は、こちらを参照してください。
ブラッシングは馬体表面についたゴミや汚れをとりさり皮膚を清潔に保つ。ゴム製の突起が同心円状に沢山付いているゴムブラシや5cm前後の毛がたくさん植わっているブラシを使う。汗が固まったような汚れはブラシではとれないので、絞った濡れタオルなどで拭いて取る。
馬房から出したばかりの馬は体におが屑やいろいろなものを付けているので、ブラッシングして異物を取り払ってから、鞍を置く。
乗ったあと馬房に戻す前は汗を軽く搾ったタオルでふき取ってやる。暑いときは、脚などに水を掛けて冷やす。心臓から遠い部位から水を掛けて、体温を下げてやる。
ブラッシングする前には、これから何をするのかが判るように、道具を馬に見せながら近づく。いきなりブラッシングせずに、手の甲などで馬体に触って、緊張が取れていることを確認。筋肉をプルプルと動かしたり、筋肉が強張っているようではダメ。馬がリラックスして緊張がほぐれるのを待つ。
ブラッシングするときに、ブラッシングしている局所を見るのでなく、馬全体を視野にいれておく。常に馬がどのような状態(安心、不快、緊張、恐怖、など)なのか確認しておく。ブラッシングする場所によって、馬が不快感を示したらやり方を変えたりして様子を見る。それでもダメなら無理にブラッシングすることは止める。
ブラッシングには常に注意を払い、馬の様子を見ながら行う。ブラッシングというのは気持ちの良いものだと思い込んで、嫌がるはずがないと思いがちだが、馬によってはブラッシングを必ずしも快適だと感じないらしい。気持ちが良いはずだ、と思ってどんどんやると、実は不快がられていたりもする。
最初はゴムブラシを大きく使って、ゴミなどを掻き落とす。こまめにちょこちょこ使わず、大きく回すように連続して使う。ちょんちょんちょんと突っつくようにやるのは馬が嫌う。
次にブラシを毛並みに逆らう方向に使ってゴミや異物を浮き出させる。すぐに同じところを、毛並みの方向にブラシを使って、浮いたゴミを払い落とす。これも、ブラシはサッサッと大きく使う。ブラシの先でちょこちょこ突っつくようにやるのは、馬に大変不快感を与える。
馬の蹄の裏は深く掘れたように引っ込んでおり、ここに泥やオガなどの異物が挟まる。はなはだしい場合は小石が挟まったりして、肢を痛める。この部分の異物を取り除ききれいにすることを「裏掘り」と言う。
馬が蹴ろうとしたらすぐに逃げられる姿勢で、馬の蹄は高く上げて作業する。ちゅうとはんぱな高さは危険。馬にとって脚で蹴ることはほとんど唯一の武器だから、そういう武器の近くで作業しているという危機意識を持つこと。
てっぴ(鉄爪)という鉤型になっている道具で、蹄の裏の泥、異物を取り除く。
上の絵で逆V字型に見えている部分(蹄叉)が傷つきやすいので、赤い矢印(左側の下向きの矢印)の方向にはやさしく掻き取り蹄叉を傷つけないように注意。青い矢印(右側の上向きの矢印)の方向にはかなり強くやっても大丈夫。
蹄はできるだけ高くあげて作業をする。低い位置でしゃがんだ姿勢で行うのは危険。ただし、上げすぎて馬が痛がってはいけないので、できるだけ低い方が良いというインストラクターもいる。
裏ぼりをするために持ち上げようとする脚に馬の体重が掛かっていては人の力で持ち上げることはできない。
持ち上げる脚の根元を肩でゆっくり押して、脚から体重が抜けるようにする。これで、普通は馬がやや脚を持ち上げてつま先だちのようになるから、手で足首の細い部分を持ってぐっと持ち上げる。
よく馴らされた馬は、肩で押さなくても「はい持ち上げるよ」というつもりで肢をさわってやると自分から肢を持ち上げる。
前脚の蹄を裏ぼりするときは、たとえば左前脚のときはこの絵のように、左腕で蹄の前側を持ち上げて、かつ、横方向(馬体から離れる方向)に肘の力を利用して引き出す。
馬の脚が捩れて痛いのではないかと思えるが、大丈夫だから、ぐいっと引き出して、しっかり蹄を上向きにして、てっぴで裏ぼりする。
裏ぼりが終わったら左腕を放す。高い位置からパッと離すとひずめが固い床面に衝突して故障を招く恐れがあるので、そっと床面まで手をそえて下ろす。
肢を持ち上げているかぎり馬は蹴れない。持ち上げる前、馬が四肢で立っているときは蹴ることができるので、万一蹴られても当たらないような位置で前肢をとる。
後ろ肢をとるときは、いきなり後ろ肢を掴むのでなく、馬を驚かさないように、馬の背から腰に手を這わせて、その手を馬に触れながら下げて、後肢を取る。後脚は重いので、手の力だけで持ち上げた状態にしておくのは困難。
この絵のように、膝をぐっと脚のしたに入れて、馬の脚を膝の上において支える。このときかなり思い切って馬の脚を後方に引くようにして持ち上げて良い。
馬の脚の重さを膝で支えたら、左手で蹄を持ち上げ、右手でてっぴを持って裏ぼりをする。
裏ぼりが終わったら、馬から離れる。下ろした蹄で踏まれないように、脚をささえていた膝は引いておく。後ろ肢も 高い位置からパッと離すとひずめが固い床面に衝突して故障を招く恐れがあるので、そっと床面まで手をそえて下ろす。
初心者は、調馬索を付けた馬に乗る機会は多くあっても、調馬索を付けて馬を訓練するというのは、難しい(馬に悪い癖を付けかねない)のでやらせてくれることは無いかもしれないが、やり方を教えてくれるところもある。やってみるといろいろ馬のことが判ったような気にもなるので、機会があるなら頼んでやらせてもらうと良い。
調馬索による訓練では、馬に(小半径で)曲がることを教える。きちんと訓練をうけていない馬は馬場のコーナーを回れないという。
歩かせたり、速歩をさせたり、止まらせたりするのは、基本的に声によって行う。歩かせるときは「ウォーク」、速歩のときは「トロット」、止まらせるときは「ホー」と声を掛ける。但し、この掛け声はクラブによって異なるので、そのクラブで使っている言葉を使うようにする。大きなしっかりした声を出す。追い鞭を使うのは最後の手段。やたらに使っていると効果がなくなってしまう。訓練で使う言葉を知っていると、乗っているときに言葉で馬を動かすこともできる。
どうしてもダメなとき(言うことをきかないとき)は調馬索の長さを短くする。人と馬の距離が近くなると、人の指示がより強力に馬に伝わる。
調馬索は馬の近くの地面にたらしてはいけない。馬がこれを踏んで首も持ち上げると、調馬索が引っかかってパニックになり大変危険。
追い鞭などを左右の手に持ち替えをするときは、鞭は背中の側に回して持ち替え、馬に無用な圧力を掛けないようにする。
調馬索は乗馬一般と同じく、他人がやっているのを見ると大変簡単そうだが、自分でやってみるととても難しい。だいたい、声だけで速歩をやってくれたり、ぴたっと止まったりしてくれない。声にも気を込めて発声しなければいけないということで、なかなか簡単ではない。
一定円周を回っているように見える馬も、自分でやってみると、遠くに行こうとする馬に引っ張っぱられたり、なかなか力がいる。またしっかり握っていないと調馬索がズルズルと引き出されて、押さえている親指を火傷する。手を保護するための手袋などは必須。
調馬索の端は輪になっているが、絶対に、この輪に手首を通してはいけない。馬が暴走したときに、ロープが手首から外れなくなり大変危険。
下側の絵のように、輪には指をかけて、すぐに放せるように持たなければいけない。
馬を曳くときは、馬の口から20cmほどのところを右手で持って、腕を腰の高さ程度において、馬の首を下げさせる。
歩き始めは「ウォーク」などと声を掛けて、声で指示して歩かせる。馬が人より前に出そうになったらすぐに右手を馬の鼻面の前に出して制す。
このタイミングで制しないと、馬が人よりずっと前にでてからでは、引っ張って停めることになり、力比べでは馬に勝てない。
馬が人よりずっと遅い場合は、左手でもった追い鞭、あるいは、輪にした調馬索を後ろへ振って、馬に前に行く圧力を掛ける。
調馬策運動を始めるときは、
馬の頭と尻を頂点とした正三角形の頂点に立つために、左足を大きく左の絵のように引いて、次に右足を大きく時計回りに動かして、左足も時計回りにその場で回して、馬の肩のあたりに正対する。
回って体を移動するときに、調馬索を引っ張ってはいけない。引くと馬の顔が人についてきてしまい正しい位置関係になれない。
頂点の位置に立ったらすぐに歩かせるための言葉(「ウォーク」など)を掛けて、歩かせる。
何度声を掛けても歩かないときは、右手の追い鞭で軽く圧力を掛ける。
馬が歩き出したら、徐々に調馬索を伸ばす。左手の親指を緩めて、調馬索を滑らせて長く伸ばす。(反時計回りに回るときは調馬索は左手に持ち、時計回りに回るときは調馬索は右手に持つ。)
調馬索の手にもっている輪が小さくなってきたら、親指で一巻き分の輪を横に押し出して外して、引き続き長くしてゆく。
調馬索が地面につかないように、張りを保ちながら伸ばす。
所定の長さになったら親指でしっかり抑えて、それ以上長さが伸びないようにする。
調馬索の長さを短くするには右手の小指側が馬の頭絡側になるように上から調馬索を掴み(緑の〇印)、ゆっくり引き寄せて輪を小さくする。
下側(赤い×印)のように、親指を頭絡側へ向けて掴んではいけない。このような持ち方をすると、馬が突然逃げたときに調馬索が手から外れてしまう。
上のような小指の側が頭絡の方を向いている握り方だと、急激な張力が掛かっても、しっかり持っていることができる。
左の絵は、反時計回りに馬をまわすときの持ち方。時計回りにまわすときは調馬索は右手に持つから、左手で引いて長さを縮めるようにする。この絵とは左右の手が反対になる。
調馬索を手繰り寄せて、右手が調馬索を束ねてもっている左手に近づいたら、左の絵の右側のように一巻き分巻き取る。
巻き取って、左手の親指でしっかり調馬索を押さえたら、右手を離して、再び調馬索の頭絡に近い側を上の絵のように持って、巻き取り動作を繰り返す。
適当な長さに巻き取ったら、「ホウ」と声を掛けて、馬を止める。巻き取る前に、「ホウ」と声を掛け馬を止めてから巻き取っても良い。
「ホウ」と声を掛けても止まらないときは、辛抱つよく何度も繰り返し声をかけ、止まるまで声を掛ける。巻き取って近くに来てからなら、必ず止まってくれる。